トライアスロン初心者が3か月でアイアンマンマレーシア完走を目指す! 体験記① 当日朝からスイム前まで
IRONMAN TRIATHLON(鉄人レース)
通称「鉄人レース」
Swim3.8km Bike180km Run42.2km Total:226km
その長い長い道のりを超えた先の鉄人の称号を目指し、世界からトライアスロンの猛者どもが集まり完走を目指す。
これはそんなレースにトライアスロン未経験者の男が3ヶ月で挑んだレース当日の物語。
それでは、
①当日朝~アイアンマンマレーシアレース前まで。
昨日寝たのが確か、夜半すぎ12時をまわるころだったか。
アイアンマンレース当日11月17日。
午前4時20分。今日の朝の目覚めは決していいとは言えず、前日にやらねばならない準備も残していたため、少々焦っていた。
起床後すぐトイレに行き、息を整え、顔を洗う。トイレから戻ってくると、「齊藤くん、これ朝食パックもらっといたから」と同室のTさんが何とありがたいことに、既に僕の分まで朝食パックをもらっておいてくれていた。
味のよくわからないサンドウィッチであったのか、それとも寝起きで僕の味覚が識別を諦めたのかは定かではないが、サンドウィッチらしきものをほおばる。
それ以外にもリンゴが2つ、オレンジジュース、水、マフィンが入っていて、とりあえず血糖値を上げるためにマフィンもほおばる。
リンゴはレース会場に着いてから口寂しくなると思ったから1つだけ食べ、もう1つはバックに詰める。
干していた水着に履き替える。ランカウイは湿気が高く、湿っていたのだがまあ結局濡れるから気にしない。
そして、ランで使うスペシャルニーズ(途中でもらえるお助けグッズ)に寄せ書きの国旗を詰め込み、5時にロビーにくるバスに乗り込むため、階段をふらりと駆け下りる。
ロビーのお兄さんに本当は一個しか貰えないはずのマフィンを交渉して内緒でもう一個もらい、バスへと駆ける。
まあ予想通りなのだが、僕以外の人はほとんどバスにいる。
こういうギリギリで動いてしまうのは悪い癖なのだが、どうにもこうにも、マレーシアに4ヶ月いた僕の身体は、5分前行動などという謎の熟語を気にもとめない。良くないですごめんなさい。
バスが発車し、どうやらぺちゃくちゃ話していく空気でもないし、僕自身テンションを上げて行きたかったので音楽をかける。
「負けるもんかっ」9月に無人島で出会ったシンガーソングライター風見穏香こと、しーちゃんの曲をかける。
意外にもすぐにマインドが切り替わり、3ヶ月前「鉄人チャレンジ」を宣言した自分、そしてこの3ヶ月、なんとかそのわがままを形にしようとやってきた過程がぽろぽろ脳内を駆け巡り、今ここランカウイにいること、そしてアイアンマントライアスロンへと向かっていることに少し感慨みたいなものを感じた。
5時25分。
会場に着く。
バイクトランジション解放は5時45分。少し時間がある。
ああ、ここでホテルで大の方をし忘れたことに気づく。
最悪である。
簡易の仮設トイレで、しかも「マレーシアの」という割と強烈な修飾語句を上乗せした仮設トイレで、大などしたくなかった。近くを見渡すと、スイムスタート地点かつT1の名称にもなっているThe Danna Hotel が見えた。ちょうど学習院大から来ていた子もトイレに行きたいと言っていたので、ダメ元で交渉にいく。
「Abang, helo. Saya mau pergi ke tandas nya. Bolekah kita menggenakan tandas di sini kah?」
ホテルの前のガードマンにマレー語で話しかけてみる。
ちなみに上の文は「お兄さん、トイレ行きたい、使わせてくれない?」という意味。
幸い5ヶ月現地で学んだマレー語のレベルは落ちておらず、これが今回のアイアンマンレース挑戦にとってすごくありがたいものだった。
マレーシア語は学びやすい言語だからアイアンマンマレーシアに出る人は簡単な単語を覚えていくと、コミュニケーションが取りやすく、なんせ相手がより親近感を持ってくれるから助けてくれる。
まあ今回のトイレに関しては、見事に断られたので、仕方なく簡易トイレで済ます。
真っ暗な簡易トイレ。携帯のライトをセットし、魔物の居つく巣窟に入るかのような志でダンジョンへと入る。
詳細は省く。ただひとつだけ。
大の場合ホテルでトイレに行っておくことを強く勧める。
トイレから出るとトランジションが空いている。
ただここでもう一つ問題。
「あれ?携帯どこやった?」。
そうなのだ。魔物の巣窟だ。
あまりに居心地が悪く、早く出たい思いが先走りライトの役割を果たしていた携帯を忘れてしまった。急いで戻る。
トイレに並んでいる行列をすっ飛ばし、ソーリーソーリーと言いながら、確認。・・・あった。
やはりこれから共に鉄人を目指す仲間たち。
素晴らしきかな人格。微動たりしてない僕の携帯はまばゆいばかりの光を放ち、僕の次にトイレに入り込むレンジャーたちの救世主の役割を果たしていた。携帯を回収。トランジションへ。
いよいよバイクセット。
バイク自体は昨日11月16日にセットはしているのだが、補給の水やタイヤの空気、こと僕に関しては前日にスポークが壊れてしまって持ち帰ったタイヤも取り付ける。
幸いバイクメカニックが5~6人朝も早いのにトランジションに待機していたので全部やってもらう。
タイヤの空気もきっとマレーシア選りすぐりであろうメカニックの戦士たちを信じ、彼らの言う通り針が100に届くまでいれる。
100?
日本だと70とかまでしか入れなかったような?
まあええか、多ければ多い方がパンクしない気がするとバカみたいなことを考えながらメカニックを終える。
メカニックの兄ちゃんは昨日スポークの修理の時お世話になった人で、丁寧にお礼を言う。熱く握手を交わし、激励をもらう。
こういうところがすごくマレーシアの方の好きなところ。あったかい。
当日着て来た服やサンダルを入れた袋、そしてバイクとランのスペシャルニーズを預けて一応形的には準備完了。
左足の計測チップ、左手首のレースナンバー、スイムキャップ、ゴーグル。
おうけい。
この時点で確か7時前くらい。(この辺りでハーフの選手アイアンマン70.3が試泳をして、その後スタート)よし、あとは精神を整えていく。
応援の群衆の中から、母と現地まで来てくれた友人たちを探す。
いない。
何をしているんだあやつらはと思いながらも、「スイムくらいクリアしてこいよ!そしたら応援してやるよ!」というメッセージなのかなと思い、時間もないのでストレッチを始める。
ここで、あることに気づく。
感情が上がってこない。テンションが上がって来ていないのだ。正直少し焦った。
ここまで3ヶ月ずっとこの日のために準備をしてきて、バスの中では感情的になったものの、スイムを目の前にして感情が昂ぶっていない。
ただふと考えると当然な気もして、今から気を張っていたところで
3.8km、180km、42.2km、計226km、制限時間17時間の旅。
途中で何が起こるかわからないし、逆に多少問題が起きてもやり直せる時間もある。
だから自分の感情の無理なコントロールをやめ、自然に任す。
きっとレース中に乗ってくるだろう。既に始まっているハーフの選手を眺めながらストレッチを済ませ、スイム地点へ。
スイム開始地点に着く。
ランカウイの砂浜に、身体の角ばった鉄人候補たちがずらり並んでいる。
それぞれ自己申告タイムにより、色の異なった帽子をかぶる。
僕は1時間45分以上のカテゴリーに申告したのでオレンジ色でスタートだ。
プロを別にして、申告タイムが早いグループ順に5~6人ずつスタートするロール制。
接触を避けて自分のペースで泳ぎたい僕には好都合であった。
一昨日15日にも泳いだのだが、当日も15分ほど試泳の時間がある。
軽く100mほど泳ぐ。
ランカウイの海については次の記事のスイムパートで詳しく触れるが、泳ぎやすい。
さっと感触を確かめて再び砂浜へ。
そしていよいよ。
7時42分。
アイアンマンマレーシア(フル)の汽笛が、ここランカウイに鳴り響く。
まずはプロのスタート。
司会の人が声を高ぶらせ、名前を読み上げる。
そして僕らエイジグループを鼓舞する。砂浜に集う僕らはみな手を掲げ、どうやら熱量がぐんぐん上がっていく。
感情が高ぶらない心配などしなくてよかった。この状況でどう感情が高ぶらないわけがあろうか。
3ヶ月間夢見た、海の向こうでバカやってる男たちが(女性もですが)集う大会のスタートにいま立っている。
そしてエイジグループ。僕らより早い申告タイムの帽子の人たちからどんどんスタートしていく。
そして。
約8時00分。
プロのスタートから遅れること18分ほど、僕らのエイジグループの順番がついに訪れ、隣にいた法政大学のりゅうたろうと握手を交わし完走を誓い、ランカウイの、そして待ちに待ったアイアンマンマレーシアの大海へと飛び込んだ僕であった。
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